環境DNA分析

環境DNA分析を用いた生物モニタリング調査
~生物の痕跡を追って~


生物調査のゲームチェンジャー:環境DNAとは

環境DNAとは河川・湖沼・海洋等の水環境や、土壌等に存在する生物由来のDNAの総称を指します。この生物の痕跡ともいえる環境DNAを収集、調査することでどのような生物が生息しているのかを推定することができます。
環境DNA分析を用いた調査の場合、現場では水や土を採取するだけであるため、生物やその生息環境を傷つけることがなく、調査者間の技量により結果が大きく変わらないといった利点があります。このため、新たな生物調査手法として世界的に注目されています。




日本国内における環境DNA分析の普及

環境DNA分析は、水や土を採取するだけでそこに生息する生物を推定できるという簡便性から希少種を対象とする調査や、従来は難しかった広範囲での一斉調査などの場面で数多く利用されています(当社実績:45地点/日(2人2班))。
2018年には日本国内において世界初となる環境DNA分野に特化した学会(環境DNA学会)が発足され、技術の標準化へ向けた調査・分析マニュアルが公表されています。また、国土交通省では、魚類を対象とした河川水辺の国勢調査での試行調査が実施されており、環境省が環境DNA分析技術を用いた調査手法の手引きを公開するなど、一般社会に急速に普及してきています。




環境DNA分析の課題

環境DNA分析は、上述のような利点の多さから非常に注目されている技術ですが、課題も多く残されています。環境DNA分析は環境中に存在する希薄なDNAを検出しています。このため、生活排水や人間活動によって調査地域に生息しない種のDNA (サケ、カツオ等の一般食用種等)が検出されることや死亡個体に由来すると考えられる環境DNAが検出されることがあり、検出された種が本当に生息しているのかなどの分析結果の精査が必要となります。また、水生生物から放出された環境DNAは、水の流れにより拡散、希釈されるため、調査目的に合わせた採取地点の選定、試料数の設定が必要となります。



環境DNA分析を用いた生物調査への取り組み

KANSOテクノスは、2016年より環境DNA専用の分析区画を設置し環境DNA技術の習得に取り組みました。遺伝子解析関連分野と生態系調査分野に精通した専門スタッフを擁しており、学会大会および学術論文等での研究発表も行っています(技術発表|技術情報|株式会社KANSOテクノス)。日進月歩の勢いで進んでいる環境DNA技術の最新の情報を常に収集することで、生物の生理生態に留意した実施計画の立案、調査・DNA分析を可能としてきました。
近年では、国土交通省および水資源機構が実施する「河川水辺の国勢調査(魚類)」「淀川上流環境保全調査業務」、環境省が実施する「令和5年度洋上風力発電に係る環境影響評価のための環境調査」「大台ヶ原自然再生に係る調査・検討業務」、民間企業からの業務において環境DNA分析を用いた生物調査を実施しています。これら豊富な現地調査実績に加え、調査地点の環境や生物の生息環境に応じた解析・評価を提供します。


猪苗代湖において特定外来生物ウチダザリガニの侵入状況を推定

猪苗代湖では、秋元湖からの流下によるウチダザリガニの侵入が懸念されています。そこで、調査労力が少ない環境DNA分析を活用し、2019年から2020年にかけて秋元湖、猪苗代湖及び長瀬川を中心にウチダザリガニを対象とした広域調査を実施しました。
分析の結果、ウチダザリガニが定着しているとされる秋元湖と、秋元湖から流出する長瀬川においてウチダザリガニの環境DNAが検出されました。猪苗代湖の湖岸では環境DNAが検出されなかったことから、調査時点では猪苗代湖内には侵入していない、あるいは環境DNA分析で検出できないほど個体数密度が低いと推測されました。一方で、猪苗代湖周辺の小規模流入河川や水路ではDNAが検出されたことから、猪苗代湖への侵入が進んでいる可能性が示されました。
本調査は当社の技術開発予算で独自に実施したものであり、環境DNA学会等で報告をしました。


リーフレット
環境DNA分析